【報告】いのちの授業の現場より — 死にたい時もあるさ だけど僕らは生きる

子どもの死因、第1位は「自殺」だと思う人——

 

「がん」「事故」に続いて問われた単語に、一番多くの手が上がります。
その中でいち早くスパッと伸びた白い手は、寸前まで周りの子たちと突っつきあったりして、あまり前方を注目していないように見えた生徒でした。

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2007年11月に滋賀県の高校から始まった「いのちの授業」。

厚生労働省2022年の調査によれば、2007年から変わらず10~19歳の死因第1位は自殺のままです。
という事を、子どもたちと一緒に考えたい。
そう希い、日本各地の小・中学校を訪れ続いている活動は今年で14年目。
そして埼玉県鴻巣市では中学を卒業するまでの義務教育期間中に、子どもたちは最低でも1回、リヴオンによる「いのちの授業」を受けることができます。2017年には鴻巣市との協働の「いのちの授業」が国のモデル事業にも選ばれました。

今回は、2024年2月に行われた授業の報告をリヴオン事務局よりお届けしたいと思います。

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見渡す限り起伏のない景色のなかにある鴻巣市立松原小学校の校庭には、前日の雪がまだ一面に残り、雪だるまの成れの果てが点々と転がっています。
うかがった時はお昼休みのタイミング。校内のスピーカーからは軽快な音楽が鳴り響いていました。

咲いた 咲いた また咲いた 咲いた
またまた咲いた 埼玉

なんと映画「翔んで埼玉2」のエンディング曲、はなわの「ニュー咲きほこれ埼玉」のMVに雛人形と花束を持った姿で鴻巣市が登場するのに感激して、校長先生がCDを購入。生徒に頼んで流してもらっているのだそう。
そしてそのままB面に当たる曲が流れ始めました。

失敗してもいいさ だけど僕らは生きる
生きてゆく理由など 考えないで生きる
死にたい時もあるさ だけど僕らは生きる

講師の尾角光美@てるみんはハッと顔をあげ、歌詞を検索し始めました。
「すごいね。本当にその通り」

お昼休みが終わり、大きなストーブをガンガン炊いていただいた体育館に5年生と6年生、そして先生方と保護者の方々が集まっています。

今の「いのち(心と身体)」の状態を5段階、指を使ってあらわしてみよう、という投げから始まった授業。次の問いは「いのちってナンダロウ?」でした。植物や赤ちゃん、ハートや血、さらに生+死へと「いのち」を実感できるものとして考えていきます。そして「生きづらさ」を感じた時、そのいのちを、自分自身を大切にするためにぜひやってほしいこととして「セルフケア」のやり方など、講師と子どもたちの間で、問うこと聴くことが波のように寄せて返す…そんな時間が流れていくのでした。

もしかすると、この45分の授業は子どもたちの「今日」には残らないかもしれない。
聞き流されるお昼休みの歌のように。

それでも——
「自分たちが亡くなる一番の理由は?」という問いかけに、自分の頭で考え、手を挙げたこと。
「お母さんへの手紙」の朗読を聞いて、保護者席のお母さんたちが鼻をすすっていたこと。
「死にたい」と友だちに打ち明けられたら「今、死にたいくらいつらいんだね」と、ただ「ままに」受けとめ、肯定してあげてくださいという投げかけに、小さく息を飲んだこと。
目をつぶりお腹に手を当て、自分の呼吸を確かめた時、体育館の空気を震わせる友だちの気配を、同時に感じたこと——

そうした体感が小さな種として彼らの記憶の片隅に埋め込まれたのではないか、そんな予感と希望をもっています。
取り出してみるのは今じゃなくても、いつかきっと彼らの呼吸を楽にしてくれる…子どもの死亡原因1位「自殺」の声に、スパッと伸びた彼らの手が虚空を掴まないためにも。

自殺を「他人事」から「自分事」へ。
悲しみに出会った時、何かしようとするのではなく、ただ『聴く』そしてありの『ままに』うけとめることができるように。

「いのちの授業」は続きます。

死にたい時もあるさ だけど僕らは生きる
「同じ時代に生まれた若者たち」(はなわ)より