医療者のためのグリーフサポート講座の基礎講座が始まりました。
この講座は認定NPO法人キャンサーネットジャパンとリヴオンがタッグを組み、数年前から準備をしてきた講座です。
緩和ケアをはじめとし、救急医療、小児医療、そして動物の医療など、喪失の現場に携わっている医療従事者の方が、医師、看護師、保健師、ソーシャルワーカーなどの職種も超え、共に学びをスタートしました。
6月17日に第一講「グリーフの基礎」が開催されました。
講座は二つの講義から構成されています。
講義1は、リヴオン代表のてるみんから「グリーフの基礎を学ぶ」を、
講義2は、新潟県立がんセンター新潟病院の医師である今井洋介さんと、がん看護専門看護師の丸山美香さんから、医療者の実践に学ぶ「グリーフの知は現場でどのような意味をもつか」です。
どちらも先に開催したお試し講座でのテーマでもありますが、基礎講座ではその内容はぐっと深まりました。
「グリーフの基礎を学ぶ」は、基礎と銘打ちながらも、その情報量に面食らった参加者の方もいらっしゃったのでしゃないでしょうか。
グリーフの知識の説明はもとより、事例紹介、海外での取り組み、そして医療の現場での実例など盛りだくさんで、画面を追い、てるみんのことばを漏らさず聴こうとし、考え、そして感じるフル稼働の1時間でした。
まずは、グリーフの定義を丁寧に取り扱います。
グリーフとは端的には「喪失への反応」を示しています。
グリーフは「悲嘆」という言葉では捉えきれないこと、そして、「失ったこと」ではなく「失うこと」により生じるという復習から始まりました。
グリーフは、喪失の後だけではなく前にも生まれること、死に対してだけではなく、病気の告知や認知症、切断・切除をするような手術などからも生まれることは、医療従事者にとって重要な視点です。
北里大学の「がん患者・配偶者への予期的悲嘆ケアプログラム」も紹介しながら、医療の現場での予期悲嘆への支えを考えていきました。
次に、グリーフは「プロセス」であることを復習し、さらに深めていきました。
死や喪失が起こるのは、時間の流れの中で一地点かもしれませんが、人によって、また、グリーフによって、終わりなく続いていくもののように感じられるものもあれば、一旦消えてはまた幾度も立ち現れてくるように感じたり、変化したりしていくものもあります。
「私」が体験した喪失によるグリーフはどのような歩みだったか、小グループで振り返るワークを行い、体験からの理解を試みました。
グリーフを乗り越えたと感じられている方のお話や、喪失によるグリーフが一生の道標となっているというお話の共有もあり、乗り越えるグリーフも、共に生き続けるグリーフもあることを受講者のグリーフのプロセスからも学びました。
受講者からは「喪失とグリーフを大切に抱きながらともに生きていくという言葉が一番印象に残っています。ほっとしたというか、受容ということをどうも求めすぎているような現状がとても気にかかっていたので。」というお声がありました。
てるみんからは、何より一番大切な基礎知識とアクションは、“Grief is normal”というノーマライゼーションであることが繰り返されていました。
これまでグリーフが「解決すべきもの」「乗り越えるべきもの」とみなされ、「医療化」「心理化」されすぎてきた現場で、グリーフの多くは「正常である」ことを医療者が理解して患者やその家族にかかわるのなら、“Grief is normal”と知ることから得られる支えは、より大きなものとなるのだろうと感じました。
そして、下記のグリーフの最先端の理論の学びへも進んでいきます。
・喪失と回復の二重過程モデル
・継続する絆モデル
・コンパッショネート・コミュニティズ(苦をわかちあうコミュニティ)
理論の理解にとどまらず、これらの理論を現場でどう活かしていけるのかを考える時間になりました。
死や死別も解決を目指すものになっている過度な医療化の中で、医療者が、死や死別、グリーフは人生の自然な一部であることを理解すること、名前のある一人ひとりと、出会い向き合っていくことが大切であることを学びました。
○○がんのAさんではなく、Aさんという人に向き合うこと
○○がんの患者であることはAさんの一部であること
ことばでは簡単なようで、医療行為を行う場である医療機関でそれを実践することの難しさを感じていた受講生の方も多くいらっしゃったと思います。
喪失とグリーフを大切に抱きながら共に生きていくために医療の現場でできることはなにかは、3回の基礎講座を通して考えていくことになります。
コンパッショネート・コミュニティズについては、“Compassion=苦しみを共にする”ための積極的関心についての説明があり、これが講義2の今井さんの話への橋渡しとなりました。
講義2では、今井さんと丸山さんがそれぞれ事例をとおして「グリーフの知が現場でどのような意味をもつか」を提起してくださいました。
亡くなられた患者さんのご家族から「わがままを言って申し訳ございませんでした」と言われたことに、「共に苦を身に負う」同志になれなかったと感じたこと、
「どうしてこの歳で、あと数か月、もしかしたら数週間で私は死ななければならないのだろう。教えてくれませんか。」 と患者さんに問われ返したことば、
そこにどれほどの苦悩や葛藤があったのかは想像に難くありませんが、同時にそこに感じられたグリーフからの希望は、受講者のみなさんの中にもあったのではないでしょうか。
受講者の多くから、今井さんと丸山さんの話がとても胸に残っているとありました。
ここでは、おひとりの声を紹介します。
「一人の人として患者さんに真摯に向き合うこと。その姿勢や気持ち、
想いなどが患者さんにも伝わったときに、その患者さんのグリーフとも
向き合えることを患者さんから許される、そんな感覚なのかなと思ったり
しました。患者さんにそばにいることを許される、ともにいることを
選んでいただける。そんな看護師でいたいなと感じました。」
最後にキャンサーネットジャパン理事である中井美穂さんからの
「答えやゴールのないことに毎日挑むとき、集う仲間がいるということの
心強さとディスカッションの中から生まれる新たな視点や疑問から手掛かり
になるヒントが生まれてくるのを感じた」
ということばにこの講座が生まれた大きな意義を感じました。
基礎講座第二講は「自分自身を知るセルフケア」です。
たくさんの「喪失」が生まれる医療の現場で喪失を前にいろんな感情が沸き起こるけれど、気を張って、時に感情を抑え、なすべきことをしてきたであろう医療者にとってセルフケアはとても重要な学びとなるはずです。
自分自身を知ることから、また一緒に広く深く学べることを楽しみにしています。
(記:リヴオン事務局 直井知枝)